蓄電池と発電機の設置は必要か?東日本大震災から学ぶ“守る”ための備えとは
蓄電池と発電機の設置は必要か?東日本大震災から学ぶ“守る”ための備えとは
停電や自然災害に対する“いざ”というときの備えは、自分や大切な人の命を守るのはもちろん、企業の大損害を回避することにつながります。
忘れもしない2011年3月11日の東日本大震災、多くの人が地震や津波の恐ろしさを体感しました。そんな被災地の人たちにとって水や食料などの物資は必要不可欠でしたが、同じように重要だったのが「情報」です。ネット社会という時代において、PCやスマホは情報確認や安否を伝える連絡手段として最も身近なもの。ライフラインが途切れた非常時の電源確保がいかに必要であったか、今だから伝えられる東日本大震災で学んだこと、そして考えなければならない課題について、当時被災地にいた酒井さんにお聞きしました。
スマホが使えたから戦場のような状況から脱出できた
「津波ってすごいよ、本当に怖い。災害直後から1〜2週間は支援物資も届かないし、ガスも電気も水道も止まる。食べ物は減るし、トイレも行けない、いろんなものが使えない、そして携帯も電池がなければ誰も連絡が取れない。情報が何もない状況で、本当に無人島サバイバルでした。もしくは戦場だよね。」
3月11日、東京から宮城に仕事で訪れていた酒井さん。大地震の直後、14mの津波がくるとアナウンスがあったため4階建ての建物に避難したそうですが、避難したビルの3階までが津波にのまれて停電。車や石油コンビナートが周辺で爆発しているような状況下で、朝が来るのを待っていたそうです。
「ビルには暖をとれる毛布やブランケットは多少ありましたが、雪が降って寒かったのでお年寄りや小さい子を優先。ほとんどの人は寒さを我慢しながらダンボールにくるまって朝を迎えました。最初は自衛隊が助けに来ると思っていたけど、いつまで待っても誰も助けに来ない。地震から数時間後にやっと電話がつながり、迎えを頼んだものの高速道路が地割れしたことを知って……この時に状況を把握し、自分の身は自分で守るしかないと覚悟を決めました。」
PCとスマホを持っていた酒井さんは、バッテリーの残量があるうちに動いている空港を探したそうです。運良く震災の翌日、車に乗せてもらい仙台市内に出て、そこからタクシーで山形県の空港へ向かい東京に戻ることができましたが、PCやスマホが使えなければ、それこそ何もできなかったと言います。
「避難所で手動タイプの発電機を持っていた人がいたので、それをみんなで使いまわしながら充電していました。スマホは大切な連絡手段なので充電ができないということは孤立してしまうのと同じでしたね。」
タクシーで空港に向かう途中、崩壊していないコンビニやスーパーもあったそうですが、どこも長蛇の列で商品の奪い合い状態。道路は壊れて支援物資が届くような状況ではないので、食料がどんどん足りなくなるのは安易に想像できたそうです。
「思い返すと、避難した場所は行政の建物だったのに非常食をはじめ発電機や蓄電池など災害時に必要な防災関連のものが何もありませんでした。僕はスマホとPCが使えたおかげで早い段階で東京に戻れましたが、充電がなかった場合を想像すると怖いですね。もし避難場所にきちんと防災に対する備えがあれば、スマホの充電はもちろん、ストーブで温まったり、夜も真っ暗にならなかっただろうと思います。」
大地震と巨大津波がもたらした被害を見た瞬間は、ただただ呆然とするだけ。電話がつながり、状況を把握し、対策を考えるまでのアクションにできたのは、スマホやPCが使えたことが不幸中の幸いだったようです。
東日本大震災で学んだ「防災」の重要性
地震や津波から逃れて生き残ったとしても、食料や水がなくては命が尽きてしまいますし、電気やガス、水道が使えないと不便です。実際に東日本大震災ではインフラが回復するまでに2週間以上かかりました。被災地にいたからこそ、酒井さんは防災の重要性について身を以て実感されたそうです。
「個人レベルでいえばスマホの充電や食料の調達ですけど、企業として考えると、もし停電でサーバーが落ちて重要なデータにアクセスできなければ業務がストップしますよね。発電機や蓄電池でPCが動けば、支社に連絡を取って大事なデータをバックアップしてもらうなど最悪の事態を回避できます。」
できることが限られている被災地で、連絡を取る手段があり、的確な指示があれば、企業としての大きな損失は免れると酒井さん。震災の経験からBCP対策(災害時のマニュアル)の必要性を学んでいるはずなのに、多くの企業が対策を立てられていないという現状は、大災害が起きたらそれこそ大きな損害につながりかねません。
「例えば、ネジはさまざまなモノに使われているけど、決して気にして生きているわけではないですよね。でもモノを組み立てるとき、ネジ一本不足しているだけで完成できない。ここにもし予備のネジがあればスムーズに完成できるけど、なければ探したり買いに行くという大変さがあります。ガスや水道、電気も同じで、使えることが当たり前と思っているライフラインがストップしたらすごく大変。時が過ぎて日常が戻れば大変だった記憶も薄れてしまうから、防災対策の必要性について真剣に考えなければと思います。」
防災対策を立てることは、家族など大切な人を守るだけでなく、企業の存続にも大きな影響を与えます。被災地だけではない、万が一の備えが多くの人の生活を経済的な面からも救うことをもう一度考えてみてください。
被災後も事業を継続して従業員を守るBCP対策
BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態が発生した場合において、平常時から行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを事前に取り決めておく計画のこと。具体的な内容が以下になります。
- 会社の存続に関わる最も重要性(または緊急性)の高い事業を特定する
- 緊急時における中核事業(1の事業)の目標復旧時間を定める
- 緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく
- 事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく
- 全ての従業員と事業継続についてコニュニケーションを図っておく
引用:中小企業庁
BCPは食料や水の確保だけでなく、建物が崩壊した場合でもできるだけ早急に復旧し、廃業や従業員の解雇を避けるための計画です。そのための備蓄として、電気やガス・水道の確保が大切となります。
特に津波を予想される地域で生活する場合は、東日本大震災の経験から2週間分の備蓄が必要であり、備蓄を水害から守ることまで考慮しなくてはなりません。
大阪北部地震では断水期間が2日間、都市ガスの復旧には7日間かかり、北海道胆振東部地震では最長の断水期間は11日間だったことを考えると、地震に備えるなら水は10~14日分あると安心でしょう。何を熱源として生活するかにもよりますが、ガスや電気は最低でも7日分用意しておきたいところです。
農林水産省でも水やガス(カセットボンベ)は1週間分の備蓄を推奨していますので、ぜひ参考にしてください。
また、生活時間の1/3を占める勤務先でも、従業員の人数分の十分な備蓄が必要だといえます。万が一被災しても早期復旧して事業の継続を計り、勤務している人々を守る「強い企業」でなくてはいけません。そのための計画が、BCP(事業継続計画)です。
現代はネットワークでの情報管理やコミュニケーションが増えているため、電気が途絶えると多くの企業が事業を動かせない状況となります。そのため、発電機や蓄電池の有無が事業存続の手綱を握っているともいえます。事業を最低限でも動かすために必要な電力量を把握し、2週間分の備蓄をしておく。防災対策への興味・関心が企業の未来を左右する可能性があることを、この機会に考えてはいかがでしょうか。